横浜地方裁判所 昭和53年(モ)647号 判決 1980年10月09日
債権者 木村敏勝
同 木村濱子
右債権者両名訴訟代理人弁護士 青木勝治
馬場俊一
債務者 株式会社越後商事
右代表者代表取締役 渋谷政尾
右債務者訴訟代理人弁護士 高橋梅夫
錦織淳
右債務者訴訟復代理人弁護士 佐藤利雄
主文
一、横浜地方裁判所昭和五二年(ヨ)第一四四八号不動産仮処分命令事件について、同裁判所が昭和五二年一二月二二日になした仮処分決定を認可する。
二、訴訟費用は債務者の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、申請の趣旨
主文一、二項同旨の判決
二、申請の趣旨に対する答弁
1. 横浜地方裁判所昭和五二年(ヨ)第一四四八号不動産仮処分命令申請事件について、同裁判所が昭和五二年一二月二二日なした仮処分決定を取消す。
2. 債権者らの本件仮処分申請を棄却する。
3. 訴訟費用は債権者らの負担とする。
第二、当事者の主張
一、申請の理由
1. 債権者木村敏勝は、昭和五二年九月二六日、債務者から七五〇万円を弁済期昭和五二年一一月二五日、利息月七分の約定で借り受けた。
2. そして、同年九月二六日、債権者木村敏勝の右借受金債務を担保するため、同債権者は別紙物件目録一記載の建物(以下、本件建物という。)の所有権を、債権者木村濱子は別紙目録二記載の土地(以下、本件土地という。)の所有権をそれぞれ債務者に移転して売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記の手続を行うことおよび債権者木村敏勝が前記借受金の元利金を弁済したときには右各仮登記を抹消し、同債権者がこれを弁済しないときは債務者と両債権者と話し合いのうえ本件土地建物の時価(約三、〇〇〇万円)と債権者木村敏勝の債務額との差額を清算する旨合意した。
3. そして、債権者木村敏勝は、本件建物について横浜地方法務局昭和五二年九月二八日受付第五六〇七一号をもって同月二六日付売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由し、債権者木村濱子は、本件土地について横浜地方法務局昭和五二年九月二八日受付第五六〇七三号をもって同月二六日売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由した。
4. 債権者木村敏勝は、約定の弁済期に右借受金を返済することができなかった。しかし、同債権者は、昭和五二年一二月二一日、債務者代理人である高橋梅夫に対してその事務所で元利金として現金七八五万一七八一円を提供したところ受領を拒絶されたので、同日横浜地方法務局に七八五万一七八一円を債務者のために供託した。
右供託により債権者木村敏勝の債務者に対する借受金返還債務は消滅し、本件建物および土地の所有権は債権者木村敏勝および同木村濱子にそれぞれ復帰した。
5. 本件建物については、横浜地方法務局昭和五二年一二月二日受付第六五五九〇号をもって同年一二月二日売買を原因とする所有権移転登記がなされ、本件土地については昭和五二年一二月二日受付第六五五八九号をもって同年一二月二日売買を原因とする所有権移転登記がなされているから、各債権者は債務者に対して前記各仮登記および右各本登記の抹消登記手続請求権を有する。
6. 債権者らは、前記各登記の抹消登記手続を請求する訴の提起を準備中であるが、債務者は本件土地および建物を他に売却しようとしており、もし、債務者がこれらを売却すれば、債権者らが後日勝訴の判決を得てもその執行は不能になる。
7. そこで、債権者木村敏勝は本件建物について、また債権者木村濱子は本件土地について、債務者に対し譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分を禁止する旨の仮処分の申請をしたところ、横浜地方裁判所は同庁昭和五二年(ヨ)第一四四八号不動産仮処分命令申請事件において、債権者木村敏勝に対して保証金五〇万円、債権者木村濱子に対して保証金二五〇万円を供託させたうえ、同旨の仮処分決定をした。
よって、債権者らは右仮処分決定の認可を求める。
二、申請の理由に対する答弁
1. 申請の理由1項のうち、昭和五二年九月二六日、債務者が債権者木村敏勝に七五〇万円を交付したことは認め、その他の事実は否認する。右七五〇万円は本件土地建物の売買代金である。
そして、債権者らは、昭和五二年一一月二五日まで八五〇万円をもって本件土地建物を買戻すことができ、また、右期日までは債権者らおよび債務者は本件土地建物を第三者に譲渡しないとの約定であった。
2. 同2項のうち、昭和五二年九月二六日当時債権者木村敏勝が本件建物を、債権者木村濱子が本件土地を所有していたことは認め、その他の事実は否認する。
3. 同3項の事実は認める。
4. 同4項のうち債権者木村敏勝が昭和五二年一二月二一日債務者代理人高橋梅夫の事務所に来たことおよび同債権者が同日横浜地方法務局に七八五万一七八一円を債務者のために供託したことは認めるが、その他の事実は否認する。
5. 同5項のうち本件土地建物に債権者ら主張の各登記がなされていることは認めるが、その他の事実は否認する。
6. 同6項の事実は争う。
第三、証拠関係<省略>
理由
一1. 先ず、債権者ら主張の消費貸借契約および譲渡担保契約の成否について検討する。
原本の存在と成立に争いない疏乙第一号証、疏甲第一五号証、証人池田照宏の証言、債権者木村敏勝および債務者会社代表の各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。
債権者木村敏勝は昭和五二年九月二四日頃知人の栗原尚を介し債務者に対して本件土地建物を担保に七五〇万円の融資を申込んだ。しかし、債務者は不動産の仲介を目的とする会社であり金融を目的とする会社ではないので、右土地建物の買戻特約付売買契約による金融であるならば応じることとし、その結果、債権者らと債務者との間に昭和五二年九月二六日、次の条項を含む売買契約書が作成された。
計算書
(1) 7,500,000円×0.15×2/12=187,500円
(2) 7,500,000円×0.15×26/365≒80,136円
(3) 7,500,000円+187,500円+80,136円=7,767,636円
注 (1)は750万円に対する年1割5分の割合による2か月間の利息
(2)は750万円に対する弁済期の翌日から供託日までの26日間の同じ割合による遅延損害金,なお遅延損害金の割合に関する約定についての主張立証がないので遅延損害金の率も年1割5分となる。
(一) 債権者木村敏勝は本件建物を、債権者木村濱子は本件土地を債務者に対して八五五万円で売渡す。
(二) 債権者らは昭和五二年一一月二五日までに八五五万円で右建物および土地を買戻すことができる。
(三) 右期間中債務者および両債権者は、右建物および土地を第三者に売却しない。
そして、同日債権者木村敏勝が債務者から七五〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。
2. このように、昭和五二年九月二六日に債権者らと債務者との間に成立した契約は本件土地建物の買戻特約付売買契約の形式をとっている。しかし、右契約は前記の如く債権者木村敏勝が金融を得る目的でなされたもので、債務者もその目的を熟知し、昭和五二年一一月二五日に八五五万円の弁済を受けることを期待していたこと、本件土地建物の売買代金が七五〇万円でありながら、民法五七九条に牴触するのを避けるため契約書中ではこれを八五五万円と表示していること、買戻価格である八五五万円は七五〇万円およびこれに対する昭和五二年九月二六日から同年一一月二五日までの月七分の割合による利息に相当し、もしこれを真の買戻特約付売買契約と解すると利息制限法の著しい脱法行為となること等を考慮すると右売買契約書に表示された債権者らと債務者の合意は、債権者木村敏勝が債務者から七五〇万円を弁済期昭和五二年一一月二五日、利息月七分の約定で借り受け、その債務を担保するため債権者木村敏勝は本件建物の所有権を、債権者木村濱子は本件土地の所有権を債務者に移転したものと解すべきである。
二、次に債権者らの主張する精算の合意、すなわち、債権者木村敏勝が昭和五二年一一月二五日までに八五〇万円を支払わないときは両債権者と債務者との協議により債務額と本件土地建物の時価との差額を清算するとの合意がなされたことを認めることのできる証拠はない。
そして、特別の事情を認めることのできない本件においては、右譲渡担保契約は帰属清算型であり、本件土地および建物の価格は疏甲第一五号証および債権者木村敏勝本人尋問の結果によれば約三〇〇〇万円と認められるので、債務者が債権者木村敏勝に対する前記貸金債権との差額に相当する清算金を支払うまでは、同債権者が元利金を支払えば、債権者らは本件建物および土地の所有権を取り戻すことができると解すべきである。
三、債権者木村敏勝が、昭和五二年一二月二一日、債務者代理人の高橋梅夫の事務所において同人に会ったことは当事者間に争いがないが、このとき債権者木村敏勝が右高橋梅夫に対して借受金の元利金として七八五万一七八一円を現実に提供したとの事実については証人長岡雅興の証言および債権者木村敏勝本人尋問の結果中に一部その趣旨に副う部分があるが弁論の全趣旨に照らして信用できず、他に右事実を認めることのできる証拠はない。しかし、債権者木村敏勝および債務者代表者本人尋問の結果によれば高橋梅夫は当時債務者の代表者である渋谷政尾から一五〇〇万円程度の金額でなければ受領しないよう指示されていたことが認められるので、仮に債権者木村敏勝が高橋梅夫に対して七八五万一七八一円を現実に提供しても受領を拒絶されることが明白であったと認められるから、同債権者が高橋梅夫に対して口頭の提供もしないで同日横浜地方法務局に債務者のために七八五万一七八一円を供託したことは弁済の効力を生ずると認められる。(右供託の事実は当事者間に争いがない。)そして、同日債権者木村敏勝が債務者に対し負っていた債務の額は、利息制限法の範囲の下においては七七六万七六三六円(計算方法は別紙計算書記載のとおり。)であったから、右供託により同債権者の債務は消滅し、本件土地建物の所有権は、それぞれ債権者木村濱子および同木村敏勝に復帰したと認めることができる。
四、次に、本件土地建物について債権者ら主張の各仮登記および各本登記がなされていることは当事者間に争いがないから、債権者らはそれぞれ自己の所有する本件土地または建物について右各登記の抹消登記手続請求権を有するところ、債務者が前記の如く不動産の仲介を目的とする会社であることから、各債権者の前記各抹消登記手続請求権を保全するためには債務者に本件土地については債権者木村濱子の関係において、本件建物については債権者木村敏勝との関係において一切の処分を禁止する必要があると認められる。
五、よって、本件仮処分決定を認可することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 菅野孝久)
<以下省略>